このたびは『3等星のアルネブ』をお迎えいただきありがとうございます。
この本は元々、見開きで挿絵&文章のみの、絵本のような構成で作ろうと思っていたのですが描きたいお話をまとめるには難しかったので漫画形式となりました。絵本でやりたかった静かな空気とゆったりさは引き継げたかなと思います。
語り手のリーゼルは、うさぎとして生を終えた少女です。星月を眺めながら飼い主に想いを馳せる内容ですが、リーゼルと飼い主の関係性を知っているとまた見方が変わるかなと。
↓リーゼルが亡くなってからの飼い主の様子
オオカミ兎1話と併せて読んでいただくと関係性が見えてくるかなと思います。
野暮かなとも思いつつ、少しだけ解説を入れます。
「あの日の夜」がこんなに綺麗だったら、というのはリーゼルが虐げられ始めた辺り~亡くなった夜のいずれかを指しています。
リゼにとっては星空があればきっと…という思いがありますが、もちろん星空程度でどうにかなる環境ではありませんでした。飼い主側にもそうなってしまった背景がありますが、ペット虐待なんて到底許される行いではないので…この辺は本編のだいぶ後半に出す予定です。
ふたりは再び邂逅するのか、はたまた…ということでお楽しみに。
星を見なかった「その夜」はうさぎ荘に初めてリヒトが来た日、本編の1話にあたります。
リヒトと出会うことでリゼ自身の生活にも大きく影響があり、日課の天体観測が断続的になったのもそのうちの一つです。
私はリヒトとリーゼルの関係性がすごく好きで、お互い性質は正反対のようでいて、一緒にいることでいい方向に向かっていくっていう…こう言葉にするとありふれた物語のありふれた関係性ですが、本編にてこのふたりだけの時間を積み上げていきたいなと思っています。
ぜひ、今後の本編も併せて楽しんでもらえたら嬉しいです。
それから冬の夜にはぜひうさぎ座を見つけてあげてください。
このたびは本をお迎えいただき本当にありがとうございました。
おまけ
みなさん、星空を見上げるのはお好きですか?
私は大好きです!
天体観測ガチ勢ではないのですが、満天の星みたさに星が綺麗に見えるという長野県阿智村へ行ってみたり仕事終わりや休日にお気に入りのプラネタリウムに行って涙を流したりするぐらいには大好きです。
小学生の頃は星座早見盤片手に窓を開けてじっと星を探したり、真冬(地元が北海道なので極寒)の夜にノート片手に外へ出て星をスケッチしたりしてました。
いつか星に関する作品を描く時はちゃんと星座位置が正確なやつを描きたい!と常々思っていたので…今回、やっと夢を叶えました!
天体観測がお好きな方はきっと、オリオンの三ツ星を見つけておや?と気付いたかもしれません。
夜空を見上げ、星をつなぐことで知ってる星座を見つけ出すことに喜びを見出してる民なのでこの点に関して本当に大大大満足です。知ってる星座見つけるの、楽しいですよね。
星空作成サイトのおはなし
自分で星座盤片手に星位置を打ってくのはさすがに大変なので、どうしたものかと色々探してたのですが…「星降る」という、日付と位置を入力するとその日観測できる星空が見られるという素晴らしいサイトにとても助けられました。
リーゼルが星座に興味を持ちだした辺り(P6)から夜空の星の位置が非常に正確です。
ただ、日本から見えるうさぎ座って(オリオン座の下なので)かなり地平線近くで、どうしても見上げる位置に置くのは難しくて…それは東京でも沖縄でもあまり変わりありません。
なので同サイトにて、沖縄の空を指定して緯度0度にした空を使ってます。
一番目立つのは中央左寄りのシリウス、その右上側には3連星でおなじみのオリオン座が見えますね。
うさぎ座はオリオン座の下です。(その下に、はと座があります)
星座線でつなぐと分かりやすいですね。
星座線のおはなし
星座線の話を少しします。
現在星座は88個ですが、世界的に決まってるのは星座位置の境界線になります。この範囲が●●座だよ~っていう、国境線みたいなものです。
星座といえば星座線で結ばれたものがおなじみですが、なんとこの「星座線」は世界的に取り決めがあるわけではないそうです。ある程度の共通認識はあれど、各々が好きに線を引いてるってことですね!
(参考:星座 | 天文学辞典 https://astro-dic.jp/constellation/ )
「3等星のアルネブ」では星降るさんの星座線を使わせていただきましたが、個人的には国立天文台の星座線が好きです。うさぎの胴体部分が三角になっててかわいいです。他の天体観測本を見ても三角で繋いでる星座線が多い印象でした。
月と惑星
正確だと声を大にして言いはしましたが、月と惑星位置に関しては…すみません、演出を優先した為かなりデタラメです。
漫画内の月の位置からうさぎ座を見つけ出すのは無理なので、周りの星(シリウスとか)から頑張って見つけてあげてください。
少し月の話もします。星空観測をするにあたって、月ってものすご~く邪魔な存在で…漫画内でも触れましたが月の光って非常に明るくて強いので満月と新月では星座の見つけやすさが段違いです。
どうしても月が出て見にくい時は手で月を隠してあげると、多少見やすくなります。
ということで、月の光への私怨が漫画内には織り込まれてます(笑)
うさぎ座のおはなし
うさぎ座にまつわるお話としてヒュギーヌス(Hyginus)の天文詩(Poeticon astronomicon)に記されたお話をとりあげました。
(参考:Star Tales – Lepus | Ian Ridpath http://www.ianridpath.com/startales/lepus.html)
が、調べてみたところ天文詩を書いたのがヒューギヌスなのかも怪しいと巷ではまことしやかに言われているようでして、ヒューギヌスはめっちゃ優秀なのに天文詩には初歩的な文の間違いが多くて別人説が出ているとか。
漫画を描くにあたり天文詩を読みたかったのですが、国内で翻訳された出版物はなさそうでした。英訳版なら海外の出版社から出ているようです。
いつか、図書館のレファレンスでこの辺りに関する記述を確認しに行きたいなと思ってます。
とはいえ、実はうさぎ座ってこれといった神話や物語は残っていません。
オリオン座とかこぐま座とかみたいなストーリーがないので本当にナゾなのです。
書店に並ぶ天体観測本では「オリオンの荒々しさを鎮める為、愛らしいうさぎをゼウスが遣わせた」とか「でも踏みつぶされた」とか「あまりのかわいさに狩りを躊躇した」とか「オリオンの猟犬(おおいぬ座)に追われている姿」だとか…とにかく、そう考えられているのではないか、という話ばかりが載っていました。
踏みつぶされたうさぎだなんてリゼが知った日には卒倒しそうですね。
アルネブと三等星
作中でも出てきた、うさぎ座の一番明るいα星「アルネブ(Arneb)」はアラビア語でうさぎという意味だそうです。
ちなみにβ星「ニハル」はラクダだそうです。うさぎ座にラクダ、なぜ…!?
それとR星はものすごく赤い星でして、その赤さはさそり座のアンタレス以上と言われています。
↓こちらの記事にわかりやすい写真がありました!
【うさぎ座R星】クリムゾンスター【深紅の星】 https://hirokami1024.com/crimson-star/
星の明るさの話(等級)の話も少しだけ。
1等星はものすごく明るい星、というのは小学校の理科で習ったと思います。では夜空で一番明るい星が1等星なのかというとそうではありません。
等級にはなんと、マイナスもあるんです!
私はつい最近まで知りませんでした(笑)
見かけ等級でいうと、シリウスは-1.46等星、オリオン座の右下に坐するリゲルは0.13等星となります。
(参考:星の明るさ(等級と1等星一覧)|88星座図鑑 https://www.study-style.com/seiza/knowledge/03/)
ちなみに太陽は-26です。
3等星のアルネブがいかに弱い光か、お分かりいただけたかと思います。
それでも3等星なので、都会の夜でも町や月明りに邪魔されなければ見つけることはできますが、見つけようとして見ないと見つからない星かなとも思います。
どうか見つけてあげてください。
その時に、「3等星のアルネブ」のこともちょろっと思い出していただけたら嬉しいです。
さいごまでお付き合いいただきありがとうございました。